アメリカ国立公園 【小池キヨミチ】

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 写真作家 撮影裏話 − 臨時公園管理官の襲撃


アメリカ合衆国には60近い国立公園があります。私がライフワークとして通わせてもらっているグレイト・サンド・デューンズ国立公園 (Great Sand Dunes National Park & Preserve) もその一つで、最も新しい(2008年時点)ものですが、それらは50州の様々な自然美や歴史を保護しながら一般に開放するために内務省管轄国立公園管理局が管理しています。しかしながら、この事件からそのシステム化された管理と管理官の質の維持ができない合法化されたシステムに浸る輩に不信感を抱いてしまうことになりました。自分のみを守ろうとする官僚システムにみられるものに類似したものです。

それは、渡米した30年近く前から親しくお付き合いをして頂いている友人H氏とエルク大鹿の撮影をさせてもらおうとロッキーマウンテン国立公園(ロッキー山脈国立公園 Rocky Mountain National Park) に出向いたある秋の日のことです。トレールリッジロード (Trail Ridge Road) と呼ばれるこの国立公園の見所は、北米一高い尾根ハイウエイとして知られ、その最高点は富士山の頂上にわずか及ばない標高 (3713m)にあります。樹木限界線(ティンバーライン)より上の標高地帯には樹木が生えておらず高山植物で地表面が覆われています。標高が約3300m以上の場所であすが、私たちはその樹木の生えていない岩場を歩いている時にエルク大鹿の雄たちに出会いました。5頭ほどの若い雄の群れに、私たちは彼らより下から近づいてポジションを決めました。驚かせることのないように、常に彼らには私たちの存在が分かるように気を配りアプローチするのはもちろん、ある一定の距離以上近づかないことが必要でした。これはワイルドライフと接する時に必須と言われる鉄則です。

この日は天候もよく、私たちものんびりと彼らが草を食む姿を眺めてはシャッターを切らせてもらっていました。高山地ではありましたが比較的暖かかったこともあり、何頭かは私たちに異常なほど近づいてきて(通常私達の方から近づいたら危険を感じて逃げられるか、防衛本能で攻撃されかねない距離でした)居眠りを始めました。動物の方から近づいてきたので、私たちは動くことなくそのままのポジションを保ち、彼らを見下ろすような形にならないよう気を配りながら静かにこの平和な時をエルクたちと楽しませてもらっていました。

ところが突然、その静寂が崩されたのです。それは私達とエルクたちが予期していなかった突然の若い公園管理局員(レインジャー)によるものでした。私たちよりも高い岩場に登り回り込むようにして近づいてきたそのレインジャーは、とんでもない大声で怒鳴り叫ぶようにして声を上げたのです。私たちはもちろんでうが、のんびりと草を食みながら昼寝をしていたエルクたちが驚いて立ち上がりました。そのうちの一頭は、私たちの目と鼻の先という距離まで近づいてきて昼寝をしていたので、立ち上がった瞬間の姿と改めて思い知らされた目の前の大きさに圧倒され、なんともいえない緊張した空気が突如姿を現しました。

レインジャーが更に叫びました。「お前たちは野生動物を威嚇している。即座に立ち退け!」

私たちは「何?」と思わず口を開けるようにしてあっけにとられてました。彼は自分のとった行動が如何に危険かを全く理解せず権限のみで命令しているようでした。ところが命令の分からないエルクたちは、突然の叫び声と怒りに満ちた上から吐き出すようにして発せられた声にのみ反応し、警戒心を高めて私たちの横で様子をみています。アプローチの仕方によって野生動物が如何に人間にとって危険な反応を本能的にするかは、ワイルドライフを尊重し親しむアウトドア家なら誰でも知っていることです。当然ながらレインジャーが、それを知らない訳がない、と普通は思うでしょう。ところが、「正義の味方」と思い込んで彼がやった行動が、その瞬間に私たちの命を危険にさらしていたのです。私たちは中腰でエルクの様子を見ながら少しずつ離れ、目くじらを立て怒りを顔一面に見せている彼の方に向かいました。彼の前に行くと、こう怒鳴りました。「野生動物に近づきすぎだ。これは彼らに対する虐待であり、動物に危害を加えているとみなす。」そんな彼に私と友人は落ち着いた声で言いました。「貴方のアプローチの仕方は大変危険です。私たちがエルクに襲われかねない状況を貴方は作った。分かっているのですか?」しかし彼の形相は変わらずレインジャーの権力を行使するしかないと思えるような勢いで言った。「カメラを渡しなさい。」その意味がよく分からなかったのですが、後から考えたら彼は私たちがカメラを使って彼に襲い掛かるのを恐れたらしいのです。私たちがカメラで彼を襲うようなことはありえないですが、彼は異常に私たちに警戒をしていたらしいのです。確かに、取っ組み合いにならなくてもすぐに勝敗がつくだろうという相手であることは友人も私もよく分かっていましたが、その言葉が馬鹿らしく、また意味をなさなかったので、「なぜカメラを貴方に渡す必要があるのですか?」とだけ聞きました。私が心配していたのは中のフィルムにダメージを加えられないかどうかということでした。彼は怯えていて、私達がカメラを武器に襲い掛かるのではないかと思っていたようです。

 結局仕方なくカメラを渡し車まで移動すると返却されました。その後道路脇の岩場に待機を命令され、彼が私たちの身分証明書を持って車に行っては何かを調べている間、ずっと待たされました。一時間位水を飲むことも許されず標高3500mほどの位置で炎天下に晒されながら待つ意味がわかりませんでした。結局動物虐待の罪を課せられチケットをきられましたが、動物を威嚇し私たちを危険に晒したこの管理官に回答を求めた私たちの質問は無視され「お前たちの質問に応える必要はない。」と捨て台詞を置いて立ち去って行きました。

後日私はロッキー山脈国立公園事務所の管理局長宛に抗議文と説明要請文を書きました。その手紙の写しは内務省長官、地元エステスパーク新聞社、そしてエステスパーク市長に転送しました。その後、同国立公園管理局管理長官マーク・マグヌソンから返信が来ましたが、管理官ラーソン(この事件の当事者だったレインジャー)がとった行為に関しては一言も説明や謝罪もなく、ただ彼が切ったチケットの有効性だけを強調していました。明確になったことは、ラーソンが新米のレインジャーであったことと、この事件後に私の指摘で愚行が明確になったために特別研修を受けさせることによって問題を解決したと言ってきたのです。つまり彼に手落ちがあったことを暗に認めていたわけですが、私たちに危険にさらし、高山地で水を飲むことも許さずに1時間ほども太陽に晒しめたことに関しては何も言及することはありませんでした。

システム化に頼り、システムがすべてと思って自分たちだけを守ろうとする組織の真相が姿を出しただけのことで、驚くことでもありませんが、こちらの正当性を全く無視し、公的管理責任をもちながら一般訪問者の質問に答えられないほどシステムの矛盾を大切にし続ける管理長官マグヌソンには憤慨しました。アメリカの国立公園は1872年にイエローストーンが世界最初の国立公園になり、当初は軍隊が管理をしていましたが、1900年代になってから内務省管轄で国立公園管理局が設置され現在に至っています。国立公園の主旨は、自然を守り子孫に残すことであり、常に一般に開放することにあります。それには、自然に対する威厳の念もあっただろうし、訪問者や管理者にも誇りと自然に対する認識もあったことと思います。しかしながら、公園ビジネスによる収入がこのシステムを変えているのも問題の一つになり、また組織としての管理者の驕りが強くなっていることも重なって、今回のような出来事が起こったのが事実となりました。年間百万人を超える訪問客のある有名な国立公園は本当に驕ってしまったのでしょうか。

人の安全を守るために働く人間はただ体力があって若いだけでは勤まりません。ましてや、巨大な生態系に生きる野生動物との協調を図るには、組織として単に頭数を訪問客数に合わせてそろえれば管理ができるというものではなく、主旨を誠心誠意理解しているならば、この手の管理官に公用車のキーを渡し、司法権を与えることはなかったろうと思います。プライドなき公務員。まるで現在の先進国家の政治屋たちと同じで、税金で食べていながら誇りを持って国民のために働かず、自分の所属する党や派閥のために公金を動かしているようです。

そして、残念にもこの件に関して写しを送っていた内務省、エステスパーク市長、エステスパーク新聞社からは何も返答がありませんでした。彼らも同様に、組織とシステムに生きる烏合の衆だったのでしょうか。

 (在米写真作家 小池清通の撮影活動を通して経験した秘話・裏話を紹介)

 

 
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写真作家 小池清通 コロラド事務所
「自然とつながる時」
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