砂漠 写真 【小池キヨミチ】

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 写真作家 撮影裏話 − 蚋(ぶよ)の襲撃


コロラド州南部のロッキー山脈群の間に広大に広がるサンルイスバレー(San Luis Valley)の東に聳えるサングレ・デ・クリスト(Sangre de Christo)山脈麓に横たわる北米一標高の高い(標高約2500m)大砂丘群に魅せられて何度この地を訪れたことだろうか。そんな思いを毎回感じながらも、ある夏の撮影中に予期せぬ出迎えを受けたことがあります。砂丘地域(Dune area)よりも生態系図でいうと下にあたるエリアは背の低い草類が多い植物生息圏でサンドシートと呼ばれています。ここも一面砂地なのですが植物が根を張るに充分な安定性があり、また植物が根を張ることが更に砂面を安定させて出来ている生態系です。草がほとんど生えていない砂丘地帯と比較すると歩行にもある程度余裕を与えてくれます。しかしながら、植物が多いということは、昆虫や動物の生息域にもなっているということで、葉や花につく虫や、草食の哺乳動物や爬虫類も共存しています。加えてそれらを捕食する肉食動物もいるから食物連鎖をしっかりと形成して、広大な生態系の中で命の輪ができているのが感じられ、よく分かります。足元に広がる無数の足跡、何気なく横たわる鹿の角や朽ちた動物の死骸や骨、そして砂地に落とされた鹿などの糞が命の存在を象徴しています。時々漂う獣の匂いや、遠くに聞こえる鹿の声やコヨーテの雄叫びは、本能の深いところをぶるぶるっと緊張感へと導いてくれます。

 砂漠性気候のこの「世界」は異常に乾燥しており、湿地や水の豊かな場所で多く見られる蚊や蚋の類は予期しないものなのですが、水分が少ないというだけで水がない訳ではないのです。砂丘群南東部から南部を横切り西に流れるメダノクリークは水量が少ない時は地表面に水の姿を見せないのですが、常に砂の下を流れています。西側のサンドシート地域ではインディアンスプリングと名づけられた泉となって姿を現し下流へと蛇行して流れています。この砂漠地帯の「水に恵まれた」クリーク沿いは緑が濃く、故に動物や虫が無数に集まり生きています。風の弱い日には、容赦なく私のような訪問者を「住人たち」が歓迎してくれることがあります。砂丘地域の西側にはメダノ・ザパタ牧場があり、国定保護地域(Preserve)の中でバイソンを900頭前後放し飼いにしています。この砂漠の草原地帯に最低限の手を入れて灌漑システムを作っていますが、農耕用のものではなく牧場内においては水の流れをある程度人為的に調整したものです。が、少し下流にいくと人為的に貯水湖(サンルイス湖)が作られサンルイスバレーの農耕用の用水として用いられています。

特別許可を頂いてこの牧場側から砂漠に入ったそんなある日に、蚋の襲撃を受けました。それはちょっと刺されたというレベルのものではなく、容赦ない蚋たちの生死をかけた戦いのようでもありました。襲われた方は驚くしかなく、私はただただ度肝を抜かれ何かがついているような気配(この時点では手についていただけ)に気づいて手をみると全長1センチ前後の蚋が8匹くらい手の甲に着地して、いよいよ攻撃態勢に入ろうとしていました。藪蚊の類には慣れていたつもりでしたが、この三角形にたたまれた羽根が印象的な雄姿にはいささかびびりました。その姿には、自然が作り出す抽象画像のような芸術性がありましたが鑑賞に浸る暇もなく、チクリ、そしてまたチクリと痛みが手の甲一面に走り、次には知らないうちに腕にまで蚋たちが更に着陸して攻撃を始めていたのです。たまらず手を振り、身体をもぶるぶるっとさせるようにして彼らを払い落として退去しましたが、手や腕をみるとあちこちに小さな点に見える刺し傷がしっかりとありました。それでも、痛みや痒みがほとんどでてこなかったのを幸いに、その日は撮影をしっかりさせて頂いて帰途に着いたのです。

そこまでは良かったのですが、虫の毒というのは凄い。帰宅してから痛痒さが顔を出し。ほ〜ら、いい思い出にしてあげるに、とでもいうような声が聞こえてきたようでした。徐々にその痒さは痛さにもなり、耐え切れず掻くと快感にも似た満足感が湧き上がってきましたが、それを楽しむことなくすぐに痛さが強まりジンマシンに苦しむ人のように転げたい気分になりました。一箇所だけならよかったのですが、20箇所位さされており、その一つ一つが個性豊かな痛痒さを力一杯に放ったのでした。この毒は結局数週間残り続き、痒みが消えた後も腕や手の甲には黒くその跡が残っていました。最終的にこの黒い跡が消えたのは数ヶ月も後になり、今思い出しても鳥肌が立つ蚋たちの存在感を思い知らされた気がしています。

自然の中に入るということはそこに生きるものたちの世界に入らせてもらうということ。そんな当たり前のことを身を持って教えられた経験であったと思っています。

 (在米写真作家 小池清通の撮影活動を通して経験した秘話・裏話を紹介)

 

 
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写真作家 小池清通 コロラド事務所
「自然とつながる時」
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